「5年後10年後にあらわれるんです、そのときの仕事ぶりが」 〜大阪府森林組合 堀切修平さんインタビュー〜

森のこと

「デザイナーチーム、南河内の森へ」「想うライター、森へ行く」の記事で、想うベンチプロジェクトのメンバーに大阪・南河内の森と木材を案内してくださった、大阪府森林組合・堀切さん。自身も南河内出身の堀切さんに、森林管理の仕事をとおした「大阪の森」「大阪の木材」への想いをお聞きしました。

文:大森 ちはる(想うベンチ編集部)

300年続く森で、100年生の木と向き合う。

大阪府の南東部・南河内地域では、吉野杉で有名な奈良県・吉野林業の影響を受けて、おおよそ300年前からスギやヒノキの植林がおこなわれてきたと伝えられています。気候や土壌に恵まれたのに加えて、技術的にも「密植」とこまめな「間伐」や「枝打ち」をおこなう吉野林業の流れを汲み、高品質な材木の生産地として振興してきました。

「密植」は幹を太らせずに高さを伸ばすために苗木を密集して植えること、「間伐」は一部の木を切り倒して木々の間隔を調整する作業、「枝打ち」は木の成長に応じて下枝や枯れ枝を切り落とす作業のことです。これらの手入れによって、木々は太陽の光をしっかり取り入れながら、ゆっくり時間をかけて育っていきます。

今もそうですが、このあたりは昔から集落と山が近く、山主(森林の持ち主)自身が農業などと兼業しながら森の手入れをしてきました。山主さんの世代交代や高齢化といった事情で手入れの担い手が少なくなってきている昨今は、わたしたち森林組合が山主さんからの委託を受けて森林整備・保全をさせていただいている山もたくさんあります。林業は、1本の木を3世代かけて育てていくような仕事です。1代目が植えた木を2代目が育て、50〜100年経った頃に3代目がようやく収穫(伐採)する。人の年齢を「◯歳」と言うように木は「◯年生」と樹齢を数えるのですが、わたしたちが管理を任せていただいている森にも、80年生や100年生の木がそこかしこに生えています。たとえば10年に1回程度おこなう間伐や枝打ちのしかたが悪かったら、枝打ちの跡が節となって伐採したあとの(木材としての)木の価値に直結してしまうので、息の長い仕事に携わっている緊張感がつねにありますね。

見えるところも、見えていない奥も。

地元の山を先代から継いで、堀切さん自身も山主。「昔は家業の一つでシイタケの原木栽培をしていて、家族みんなで植苗作業をする春休みの時期は、手伝いをしながらそのへんで基地を作ったりして遊んでいました」

大阪府の森林の多くは、森林組合の組合員が所有しています。山主の協働組織として、もともと森林組合には地域密着型の町内会的な役割があったんですよ。「誰々さんの山が近頃放ったらかしになっている。このままだと土が流れて土砂災害につながるかもしれないから、行政の補助事業を取り入れて整備しよう」とか。

山は大きな存在ですから、その姿は外からよく見えます。大阪のまちの展望台などからも、このあたりの山々を景色として目に留めてくださる人も多いでしょう。ただ、人の目に映る山って、その山の一部分……いわばオモテにすぎません。その奥やウラに広がる部分、つまり外から人の目に触れない部分の方が圧倒的に多いんです。土砂災害の防止や林業としての木の育成をはじめとする森林整備・保全は、そういった意味でも「裏方」の仕事なんだろうなと思います。間伐や枝打ちや下草刈りなどの「点」の仕事がつながって、気持ちのいい森、青々とした山といった「線」になっていく。その様子を長年かけて見届けられるのが、醍醐味です。

日々のモチベーションは、やはり山主さんにかけていただく「整備してもらって、おかげさまで山がきれいになったよ」の言葉ですね。間伐した直後なんかは、もちろんきれいです。でも先ほど言ったように、林業は1本の木を3世代かけて育てていくような仕事。間伐後すぐの森の様子は昨日と今日では何も変化を感じませんが、5年後10年後に訪れると「当時の仕事ぶり」が目にみえます。木がすくすくと育っているか、下草が元気よく茂っているか……木が根をはっていくように、わたしたちも森に、山に、地元に、大阪に根ざしていく仕事をしているのだなと実感します。

ベンチや家具……暮らしのオモテ舞台にも「大阪の木」を。

大阪府森林組合が運営する、府内唯一の国産材原木市場(南河内郡千早赤阪村)。月1〜2回の競り市では100〜400㎥の丸太が並ぶ。

南河内地域の木は、おもに建築用木材として流通してきた歴史があります。住宅や建物の骨組みとして使われる木材は壁や天井に隠れ、普段の暮らしのなかでその存在を意識されることはほとんどありません。昨今の住宅事情では、木目の美しい太い木が大黒柱として重宝されるシーンも珍しいものになりましたし。大阪のひとたちに地元の「大阪の森」「大阪の木」が縁遠い存在なのも、いたしかたないところはあるのかなと思っています。わたし自身も森林組合に入職してからしばらくは、「育てて」「切って」「売る」の目の前の仕事に焦点がいって、競り落とされたあとの木がどうなるのかはほとんど意識したことがありませんでしたし。(苦笑)

でも、ほんとうに大阪のスギやヒノキって、木材として上質なんです。大阪のまちの暮らしの背景にある山々でこんな木々が育っているんだと知っていただきたくて、触れていただきたくて、木の香りを感じていただきたくて、ここ5〜10年ほど「おおさか河内材」のPRや販売に携わっています。図書館や商業施設にベンチやスツール、テーブルを置いたり、メーカーさんと一緒に家具を作ったり。「想うベンチ」プロジェクトで万博会場に置くベンチでも、ぜひ多くの方に座って触れて、「大阪の木」を感じてもらえたら嬉しいです。そうして空を見あげたときに遠くに「大阪の森」を眺めていただけたら。