犬と散歩をしていると、知らない人から声をかけられることがある。「かわいいですね」「お散歩してもらっていいね」それだけの言葉だが、確かに心をあたたかくしてくれる。犬を連れているからこそ、やわらかくなる空気が、できた出会いがある。犬がつなぐ「いのち」があると感じて、散歩をしている人に話を聞くことにした。
一組目 もふもふ空気清浄機
「ここらは余震もすごくてね。今日はやっぱり、考えちゃうなあ」1月17日、トイプードルを連れた年配の男性に声をかけると、震災の話をしてくれた。亡くなった方や倒壊した建物に考えを巡らせ、シンとした空気の中、茶色い毛が楽しそうにこちらを見ている。暗い顔をしているとそれを察知するらしい犬は、私と男性との間ではしゃいでくれた。人間が持ち得ない無邪気さで、空気を軽くする力を持っている。おかげで男性とは笑って別れることができた。
二組目 顔見知りの親子
散歩をしに公園へ。こちらに興味を示してくれた子連れの方に声を掛けた。恐る恐る犬を撫でる男の子に、怖くないのかと聞いてみる。「よく見るよ、川のところで歩いてるの。おっきくてかっこいいの」と、はしゃいで教えてくれた。私も初めて会う親子と、犬はすでに出会っていた。どこか得意げなうちの犬に、少し悔しくなる。どうやら犬は私より顔が広いらしい。
三組目 犬と人間と犬と人間と、の関係
犬の集団を発見。嬉しくなり、触ってもいいですかと声かけをした。当然のことだが、少し怖がらせてしまった。それも束の間、犬たちが私に飛び掛かると、なぜか安心感のある雰囲気に。
「時間を合わせてるわけじゃないけど、毎朝なんとなく集まるの。最近あの人来ないね、って話が上がったり」話を聞いた公園は地域の小さなコミュニティのようになっているらしい。過去に私が貧血で倒れた時も、慌てて薬と水を取りに行ってくれた人がいた。お互いに名前も知らない人々が、犬という存在によって関係を作っている。人間とは別に、何か特別な糸で結ばれた関係だと思った。

四組目 家族だから、喧嘩もする
シーズーを連れた女性を発見。様子を見ていると、飼い主の早足にも構わずマイペースに草を匂う犬と、それに呆れて小言を言う人間の小劇場が開始。タイミングが合わず声を掛けることは叶わなかったが、種族を超えた家族のカタチが微笑ましかった。
五組目 強制赤い糸職人
シーズーを二匹つれた女性に遭遇。二匹が積極的に接触を図ってくれたため、思いがけず会話が始まった。「ここにはよく来られるんですか」「はい、二匹が散歩好きなので」飼い主さんは落ち着いた方で会話は少なかったが、これこそ犬が繋いでくれた縁だと思った。
六組目 ドックフードのクチコミとか
犬集団と遭遇した。ハスキーがよくお喋りをして、プードルが私に興味津々、ボーダーコリーは人見知りで影に隠れて、てんやわんや。混乱に乗じて会話を開始した。それぞれ犬種も性格も違う犬たちが仲良くしている様子は微笑ましい。人間と人間を繋げるだけでなく、犬同士でも世界を作っているのだろう。飼い主の方々が話をしている横で、こっそりと戯れあっていた。三匹はどんな内緒話をしているのだろう。

七組目 犬だって人見知りする
柴犬を連れた男性。私が柴犬に吠えられ、謝られたことをきっかけに会話が始まった。「冬は何時に散歩してもいいから、あんまり他の犬と会わなくなる。うちのは吠えてまうからちょうど良いけどな」夕方の散歩にはゴールデンタイムがあり、そこから少しずらして散歩しているようだ。「私の犬もよく吠えます。小型犬にだけ強気です」と暴露すると、笑っていた。今度は吠える犬同士で、と別れた。
散歩している方に声をかけ、犬が持つ力について考える。声を掛けるのに緊張していた私を助けてくれたのは、犬の無邪気な笑顔だった。見知らぬ人の間に犬という愛すべきいのちが存在することで、他人だった人間は愛情を共有する同志となる。やはり、犬がつなぐ「いのち」はあったのだ。
大阪府民ボランティアライター「想うライター」について
「想うライター」のメンバーは、大阪府に居住または通勤・通学している学生・社会人です。「想うベンチプロジェクト」のテーマ「いのちの循環」を軸に自分の興味・関心を起点にした企画を立て、プロの編集者のアドバイスやサポートを受けながら、取材・原稿制作を行っています。