私は2021年から箕面市で観光ボランティアガイドをしています。ガイドをしていて箕面の自然がすごく好きになったと同時に、見るのも苦手な昆虫たちを好きになりました。
きっかけはガイド仲間が、箕面の滝道にこんな子がいるんだよと見せてくれたこの一枚の写真でした。

「この昆虫、どう見てもタキシードを着てる!!」
私の心を鷲掴みにした昆虫。
そんな昆虫たちに詳しい箕面公園昆虫館の館長、中峰空さんに取材したお話はとても感慨深い時間でした。
箕面公園昆虫館は、素晴らしい森の中にある小さな昆虫館。かつて箕面の森は、東京の高尾、京都の貴船と並び「日本三大昆虫宝庫」と称され、多くの昆虫研究者が集い調査研究を行う場所として知られていました。中峰さんは「昆虫は、我々の想像を超える興味深い形態や生態の多様性に満ち溢れています。どれだけ調べても知らないこと、分からないことが出てきて、驚き、感心することばかりです。箕面の森で出会う虫たちにも、それぞれの形と生き方の多様性があります。その一端を間近に見ることができるのは、実はすごいことなのです」とホームページにメッセージを綴っています。

穏やかな印象の中峰さん。
この穏やかさは、もしかしたら幼い頃は私のように虫が苦手だったのかもしれない!と思い、幼少期から訊ねてみました。
ー「虫は悪いことはしないからほっておいたらいいんだよ」
奈良県吉野の山村で育った中峰さんは、幼い頃から家の中に虫が出入りする毎日。物心つく頃からご両親が「虫は悪いことしないからほっておいたらいいんだよ」と言って家族と虫が暮らす面白い家だったそう。
私は幼少期に家の中で虫を見つけては、両親に助けを求めて虫を外へ逃してもらっていた記憶が蘇りました(虫から何もされていないのに私は外へ追い出して安心していたんだ……)。
中峰さんのご家族の感覚を聞いて、私はホッと温かい気持ちになりました。虫と家族が暮らしていた中峰さんは高校2、3年生までは化石に夢中だったものの、いつの間にか絶滅危惧種を救いたい気持ちが芽生えて生物学の世界へ飛び込んだそうです。

ー「苦手な子は苦手でいいんです」
幼少期から昆虫たちをただそこに居るものとして受け入れてきた中峰さんが子どもたちに必ず話す言葉があるそうです。それは昆虫の話になると必ず出てくる苦手、嫌いという話になったとき。「昆虫のほとんどが人間と関わりない所にいますよね。だからこそ排除とかではなく、ただそこに居るものとして受け入れてもらえたらいいなと思います。苦手な子は苦手で良いんですよ。小学校で実施する移動昆虫教室で出会うお子さんの中にも嫌いな子は嫌いで大丈夫だと必ず伝えています」と。
昆虫館の館長さんなら、昆虫を好きになってねと言うのかなと思っていたらそうじゃなかった!
虫が苦手でも大丈夫。みんなと同じじゃなくても良い。虫も多様性、人間も多様性。
多様性の中で生きるとは「お互いを排除するのではなくただ受け入れる。ありのままの自分で生きる」ということなのかもしれない。
この感覚は、中峰さんの幼少期に家の中に入ってきた虫たちをただ居るものとして受け入れていたあのルーツがあるからなんだと思いました。
ー「何か欠けても補えるくらいの多様性が良い」
そして対馬にしかいない絶滅の淵にいるツシマウラボシシジミを保全するお話をしてくれました。
対馬では地元の子どもや学生たちがこの蝶の食草を育てて鹿の被害にも遭わないよう生殖地も保全して、食草に幼虫だけを放していきなり保全を試みたところ、初年度は幼虫が全く育たなかったという結果になったそうです。それは昆虫に寄生する寄生蜂が、他に昆虫がいないから幼虫に過剰に寄生してしまったのが原因だったそう。まるで、教科書のような自然界の流れの仕組みだと分かったのでした。
他の虫もいないとだめ。餌をあげて幼虫だけを育てて増やそうとしても野外には天敵がいるから分散させないといけなかった。
「多様な生き物が大事で、何か欠けると……欠けすぎるとあかんようになる感じがします。色々いる方がやっぱりトータルでみると良いんです。多様性が大事というのは言葉だけでなくほんまの意味でその方が良いんですよね。なかなか教訓として活きにくくて、実際にこれが欠けたらこうなる……と起こってしまったら回復不可能な段階だと思うんです。
何か欠けても埋め合わせができるくらいの多様性がある方が良いんですよ」

自然界の昆虫たちの多様性。
それは私たち人間界でも同じで、多様な社会で誰1人欠けることなく生きること。誰が良いとか悪いとかではなくそれぞれが生きることでみんなが繋がる世界。そして多様性の中でも孤独を感じなくて良いんだよ。それが自然界の生き物からのメッセージなんだと思いました。
ー「脳内昆虫がいるでしょ」
最後に中峰さんに私がガイドになってタキシードを着た昆虫を見てから苦手だった昆虫の概念が変化した話をしました。
すると中峰さんは「意外とよくあるパターンで虫が苦手な人ってね、苦手なのって具体的な昆虫じゃなくて『脳内昆虫』というか、想像上の昆虫であることがすごく多いんですよ。だから実際見るとだいぶ変わる人が多いんです。小学校や昆虫教室でもそうなんですけど、ヘラクレスオオカブトとかもコガネムシの仲間で目がまんまるクリクリなんですよ。目がまんまるだから見てみと言って最初嫌がっていた子は特にそれに気付くとすごくかわいく思うようになるんですよ。よう見たら違ったという人が多いんです。苦手だから見ない人が多いんです」と。
確かに私も苦手だった虫たちはまさに脳内昆虫!!笑
虫たちを良く見てもいないし、何もされていないのに勝手に苦手な悪者のイメージにしていました。(ごめんなさい)

自分の勝手な思い込みで物事の価値観を狭めていること。苦手なものは逃げないでちゃんと理解して向き合うことで世界がグッと広がること。
自然界に生きる昆虫たちから、人生観や価値観までも変えてしまうメッセージを貰いました。
脳内昆虫を手放して小さな昆虫たちをじっくり感じれば感じるほど、そこには深い学びがありました。大好きな箕面の山。自然の中を歩くと今日も私を癒して学ばせてくれています。

大阪府民ボランティアライター「想うライター」について
「想うライター」のメンバーは、大阪府に居住または通勤・通学している学生・社会人です。「想うベンチプロジェクト」のテーマ「いのちの循環」を軸に自分の興味・関心を起点にした企画を立て、プロの編集者のアドバイスやサポートを受けながら、取材・原稿制作を行っています。