言語の壁を超えるとは? 〜 言語支援員という職業 〜

いのちのこと

幼少期にイギリスで過ごした経験を持つ高校生が、ネパール出身で言語支援員として活動されている留学生にインタビューを行いました。

文:藤川茉莉圭(大阪府民ボランティアライター)

言語と「いのち」

私が「いのち」という言葉を聞いたとき、最初に思い浮かぶのが「言語」です。言語そのものがいのちだと思っています。言葉って意味が詰まっている。新たな言語を話せるようになったら、もっと違う人と話せるようになるし、違う思想や文化にアクセスできるようになる。そう考えています。

そんな考えを持つようになったのには理由があります。

3歳の時にイギリスに渡り、4、5歳で現地校に入学した私は言語支援員のお世話になりました。言語支援員とは、学校などで言語の壁に悩む生徒たちをサポートする、いわゆる学校での通訳士です。週に1、2回、朝早くに図書館に集まり、英語の授業のおさらいやボードゲームをして学んでいました。特に「Guess Who?」というゲームは印象深く、遊びながら英語の質問の仕方や形容詞を自然と身につけることができました。その場面ではたくさん笑い、すごく楽しかった記憶があります。

自分が言語を学ぶ過程で経験した、言語がもたらす出会いや知識、言葉が持つ「いのち」に感銘を受け、実際に言語サポートを行っている方に取材を行いました。

あいだに人がいること

今回取材に応じてくださったのは、大阪の定時制高校で言語支援員として活動していた大阪YMCA国際専門学校の学生のドルマさんです。ネパール出身の彼女は英語、ヒンディー語を含む4カ国語を操り、ネパール語と日本語を使ってネパールから来た高校生の授業サポートを行っています。

「高校1年生のネパール人の子に授業内容を説明したり、授業以外の時間には担任の先生や国語の先生と一緒に日常会話やゲームを通して言語習得のサポートをしています」とドルマさん。

そのなかで、ゲームを取り入れることの効果について話してくれました。「神経衰弱や都道府県の名前と地図を結ぶゲームなど、遊びながら学べる方法はとても効果的です。自分が日本語学校に通っていた時にはこのような経験がなかったので、とても良い方法だと思います」
この話を聞いて、私自身の経験とドルマさんの実践が重なり、言語学習において感情が動くことを大事にしていると感じました。

ドルマさんは言語支援員を志したきっかけについて、「中学校から海外のドラマを見て様々な文化を知りたいと思っていました。自分のいた日本語学校では言語サポーターがいなかったので、自分がその役割を担いたいと思っていました」と語ります。

「最初は緊張していましたが、学生が理解できたときの『ありがとうございます』という言葉と嬉しそうな表情を見ると、自分も嬉しくなります」とドルマさんは言います。彼女にとって学生との関係は、「先生と生徒というよりも、兄弟や親子のような、より近い関係」だといいます。

言語支援は単なる言葉の翻訳を超えた存在だと感じました。ドルマさんは「AIでは自分の本当の気持ちを表現するのは難しいですが、あいだに人がいれば言葉で直接伝えることができます」と話してくれました。通訳サポーターとして二者面談に参加した経験から、「気持ちを正確に伝えられることが大切」だと感じたそうです。

この言葉を聞いて、私は深く考えさせられました。通訳という仕事は、AIに取って代わられると言われている仕事の一つです。しかし、いくらAIが発達しても、できないことがあります。AIや機械翻訳の方が正確に情報だけを伝えられるかもしれません。通訳する時は、その人のニュアンスが入ります。正確さは少し犠牲になるかもしれませんが、情報というより気持ちが伝えられます。意味を正確に伝えることはAIの方が適しているかもしれませんが、感情が関わってくるものは、人がいた方がいいのだと思いました。

言語の壁が人がいることによって壁じゃなくなる。「あいだに人がいる」という表現がしっくりきました。

一生懸命伝えようとすることが言語の壁を超える

ドルマさんが日本語を学ぼうと思ったきっかけは意外なもので、「中学校の終わりにBTSが好きになり、彼らの『For You』という2016年の曲を聴いて日本語に興味を持ったそうです。特に『ひらひら』『キラキラ』といったオノマトペに惹かれました。日本語のオノマトペは特別です」と教えてくれました。

この話を聞いて、私も日本語のオノマトペについて考えました。言語が通じない人に一生懸命伝えようとするときに身振りとオノマトペを使います。彼女がBTSの日本語版でオノマトペの面白さを知ったように、私も普段からオノマトペをよく使います。感情がのせられ、一生懸命伝えようとする気持ちの現れなのだと思います。今回のインタビューでドルマさんとの共通点を見つけたことも嬉しく思いました。

ドルマさんは「通訳の仕事には前から興味があり、将来は通訳になりたい」と話してくれました。大阪万博でも通訳の仕事をする予定だそうです。ドルマさんの言葉「あいだに人がいる」は、言語の本質を表していると感じました。一生懸命伝えようとすることが、言語の壁を越えようとすることなのかもしれない。そんなふうに想います。

インタビューの様子