水は命の源。

いのちのこと

文:岡村美由紀(大阪府民ボランティアライター)

私の心のふるさと「二色の浜」

私たちの暮らしに無くてはならない水の存在。命に直結する飲み水はもちろん、水が人にもたらすリラックス効果も計り知れません。朝、顔を洗った時の清涼感、温泉に入った時の包まれるような心地よさ、川のせせらぎや波の音、水が醸し出すその美しい景観に、私たちはどれだけ癒されてきたのでしょう。

私はなぜか水のある風景がとても好きです。心が疲れた時やリラックスしたい時、折に触れ海が見たくなり、一番身近に感じる二色の浜へふらりと出かけます。若い頃は、よく仲間を誘って海水浴に行きましたし、子どもが小さい頃は家族やご近所さんとバーベキューや潮干狩りを楽しみました。そんな親しみ深い場所ですから、海を眺めながらひとり浜辺を散策するだけでも気持ちが晴れます。例えば行き場のない怒りが込み上げた時、波打ち際を歩きながら寄せ来る波を蹴散らしてみる。悲しみに胸が詰まり息苦しい時には、関空連絡橋の向こうに落ちる真っ赤な夕日に向かってゆっくりと深呼吸する。そうすることで心が穏やかになり、大抵の事は大丈夫だと思えてくるから不思議です。

二色の浜(大阪府貝塚市)
大阪市内から最も近く、白砂青松が美しい海岸。2024年、水質や安全の基準を満たしたブルーフラッグビーチに認定、日本の夕陽百選にも選定されている。

ですが水は私にとって癒しである反面、脅威の対象でもあります。
ひとたび牙を向けば、津波や豪雨、洪水となって街ごとのみこんでしまう水、その破壊力は凄まじく、人の命も奪います。

こうして私たちは、古代より繰り返される自然の営みの中で生かされてきたというのに、人はなぜ水道水を直接飲まなくなったのでしょう?その訳を探ってみました。

一番身近で大切な「水」
なぜ私は水道水を飲まなくなったの?

昨年の夏は本当に暑かった。命の危険を感じるほどの猛暑日や、地震や大雨による災害が続き、いつ起こるともわからない南海トラフ地震に怯えていました。ミネラルウォーターを入れた水筒はいつしか私の命綱になり、水の重要性を感じずにはいられませんでした。
流石に私も防災グッズを準備、ミネラルウォーターを買いに行こうとしていた矢先に「慌てるな、水は水道水をペットボトルに詰めておけばよい」という言葉を目にして、はっと我に返りました。

いつの間にか水道水は飲み水という概念から外れていたのです。思えばコロナが流行り出した頃、大勢が触る蛇口に抵抗があり水道水を飲まなくなった気がします。
私がやっているSNSでも、水道水は美味しいという人がいる一方で、浄水器なしでは水を飲まない方もある程度いらっしゃいました。
水道水が飲めることはとても有難いことなのに、イメージがあまり良くないのは、大阪の水道水について何も知らないのが原因だと思い、大阪メトロ西中島南方駅近くにある柴島浄水場を訪れ、お話を伺ってきました。

柴島浄水場

柴島浄水場へ潜入レポート!
大阪の水のコトもっと知りたい

今回お話を伺ったのは、大阪市水道局工務部
柴島浄水場 副場長の近田信一郎さん 

「入局以来水一筋に35年、多様化するライフスタイルの変化に対応すべく、水に対する皆さんの不安の解消を常に考えてきた」とおっしゃる近田さんに、甲子園球場約14個分の広さの浄水場を案内していただきました。

「大阪市の水道は日本で4番目の1895年にスタート、2000年には高度浄水処理水を市内全域に通水しました」と近田さん。

まずは「水道記念館」を見学させてもらい、大阪に水道が必要だった理由や、水道水が通水するまでの歴史を学んできました。

まず館内で目を引くのは、振り分けにした樽に汲んできた川の水を運ぶ水屋さんの姿と、当時の家屋の模型。土間に水屋と小さな流し、大きな水がめとひしゃくが置かれています。

「当時の人は水屋さんから買った水を各家庭に汲み置き、飲み水として使用していました。結果コレラが大流行し、1886年には6500人以上の人が命を落としました。そして明治の初期には何百もの家屋が焼失する大きな火災がたびたび起こり、1890年の新町の大火では2023戸が焼失しました」

どこで汲んだかわからない生水を、沸かしもせずそのまま飲むなんて健康を害して当然ですし、燃え盛る火にバケツ1杯の水ではなす術もなく、焼け石に水とはこのことです。

現代では考えられない悲しい歴史があったからこそ、住民の命と健康を守るために上水道の整備が急がれたことを初めて知りました。

水道記念館

また「大阪市には柴島(東淀川区)・庭窪(守口市)・豊野(寝屋川市)の3つの浄水場があり、南海トラフ地震といった巨大地震などの災害が来ても、飲料水、生活用水をお届けできるように既に配水池や施設の耐震化を進めており、水道管路の復旧にかかる数週間の間には応急給水ができる水量を備えています。河川氾濫にも耐えられるよう柴島浄水場の土地は多少高くなっていて、建物には防水扉を完備。災害対策の機能や資材もたくさん備えているので安心してください」と近田さん。

大阪の水道局、柴島浄水場は129年の長きにわたり、昔も今も大阪市民の命を守るために24時間体制で、頑張ってくださっているんですね。

安心して水道水を飲むために聞いておきたい10の質問
〜美味しい水って何?教えて近田さん〜

Q1.大阪市の水道水の水源はどこですか?淀川の河川域にはたくさんの都市があり、水質はあまり良くない気がしますが?

A.まず淀川の上流域の各都市から流れ込む下水は、過去に水質悪化が酷かった時代がありましたが、現在では綺麗に浄化された後で河川に戻されます。そのため琵琶湖、淀川の水が、戦前と同じくらいの綺麗さに戻っています。

私が幼少期の頃(1970年代頃)はお風呂1杯に角砂糖1個ほどの残留物がありましたが、今では学校のプールの広さに米粒1個ほども残っていません。

Q2.淀川の水源が綺麗になったことに加えて、そんなに水道の水質がよくなったのは、なぜですか?

沈殿池
砂濾過装置

A.より安全でおいしい水を作るために、柴島浄水場では高度浄水処理システムを導入しています。凝集沈殿池や急速砂濾過など、従来の浄化処理にオゾン処理と粒状活性炭処理を加えました。オゾンの酸化・分解力や粒状活性炭の吸着力はすさまじく、トリハロメタンやカビ臭を大幅に取り除くことができるようになりました。たとえ河川からの原水に毒物が混入したとしても有害物は残りません。

オゾン発生器

Q3.そんなに高度浄水処理の技術が進んでいたんですね。それを聞いてとても安心しましたが、有害物質が取り除かれたかは、どうしてわかるんですか?

A.水道水は水源の琵琶湖から蛇口まで、さまざまな場所で細菌や無機物、有機物など水道法で定める51項目の水道水質基準に合格しています。さらに残留塩素や農薬など31の水質管理目標設定項目をクリアしなければなりません。水道法での51項目の基準と比べ、ミネラルウォーターでさえ、食品衛生法の16項目の検査基準ですから、いかに厳しい検査かわかるでしょう?

Q4.ミネラルウォーターよりも水道水の方がハードな基準をクリアしているなんて、目から鱗でした。最近問題になっている、有機フッ素化合物(PFAS)は大丈夫ですか?

A.PFASは自然界で分解しにくい有機フッ素化合物で、大阪府下でも淀川でも人体に影響の無いごく微量が検出されていますが、まだ汚染原因が特定出来ていません。
現在では基準値の範囲に収まっていますが、早ければ2026年から検査が義務化されるようです。

Q5.やはりPFASが心配で、蛇口に取り付けるタイプの浄水器をつけているんですが、効果はありますか?

A.家庭用の浄水器ではあまり効果は期待できないですね。せいぜい5センチぐらいの活性炭では塩素しかとれません。こまめにカートリッジを取り替えないと、逆に不衛生です。

Q6.手頃な浄水器を蛇口に取り付けて安心し、気づけばカートリッジの期限が切れていることもしばしばの私には耳の痛いお言葉です。たとえば今はやりのウォーターサーバーはどうでしょうか?

A.タンク入りの水を交換するタイプのウォーターサーバーは、気をつけなければいけません。水が出ると空気が入るので雑菌が混入する可能性があると聞いたことがあります。早く飲み切るように注意が必要です。

Q7.いろいろお話を伺うと、水道水を使うのが安全な気がしてきました。ですが朝シャワーを出すとカルキ臭がするのはなぜでしょうか?

A.岡村さんがお住いの市では、独自で地下水を汲み上げる自己水系と、大阪府域の高度浄水を使う受水系に分かれているようです。塩素の量に違いがあるのかもしれませんので、居住地自治体のHPなどで確認してみてください。

Q8.なるほど、市によって水質も変わるんですね。水道管の老朽化やマンションの貯水槽などに問題はないのですか?

A.ある程度戸数の多い集合住宅なら貯水槽の水量で定期的な検査が義務化されており衛生状態が保たれていると言えるでしょう。水道管については水源から蛇口まで各プロセスで水質に異常が無いか、常時、遠隔監視しています。

Q9.そうなんですね。築年数が古い住居なので、水道管の老朽化や貯水槽の汚れが気になっていました。
話が変わりますが、昨年九州旅行で行った白川水源の水がとてもおいしく感じたのはなぜですか?

A.私も熊本へ旅行した時、白川水源へ行きました。白川水源の湧き水は水道水に比べて、硬度が2倍ほど高いです。通常は硬度が低い軟水を美味しく感じられるものですが、水温が冷たいので人によってはおいしく感じるのかもしれません。ただ天然水は塩素を含んでおらず常時殺菌されていないので、保存はおすすめできません。

Q10.天然水だから安心という訳ではないのですね~どうしたら、おいしく水道水を飲めますか? 

A.水のおいしさは①温度、②酸素量、③ミネラルの硬度で左右されると聞いています。水道水を美味しく飲むコツは、沸かすと酸素が蒸発してしまうので、沸かさずガラス瓶に入れてラップでピッタリ蓋をして、冷蔵庫で1日冷やしてください。塩素がなくなり美味しい水が飲めますよ。

あとがき

今までお茶は、沸かして飲んでいましたが、試してみると臭みもなくて普通に美味しい。

私は今回の取材を通じて、水道水にまつわる不安を払拭、水道水を躊躇なく飲めるようになりました。近田さん、これからも美味しい水を届けてくださいね。