大阪のお隣・京都に、まちなかではなく、いわゆる住宅街にベンチが広がる地区がある。京都市伏見区の深草、藤森、藤城だ。個人のおうちの軒先や駐車場、お寺の門前、クリニックやデイサービスの前などに60台ほどのベンチが点在し、ベンチの場所がまとめられたマップもあるそう。
どうして、どうやって、こんなにベンチが? 「とまり木休憩所・おでかけベンチ協働プロジェクト」のアドバイザー・吉田哲さん(大阪工業大学教授)にお話を伺いました。
とまり木休憩所・おでかけベンチ協働プロジェクト
京都市伏見区深草学区で「おでかけベンチ」を進める「深草・竹やすらぎの会」と、藤森・藤城学区で「とまり木ベンチ」を進める「とまり木休憩所実行委員会」による協働プロジェクト。2020年スタート。国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰(2022年3月)、京都市「令和2・3年度京都景観賞景観づくり活動部門 市長賞」ほか受賞多数。
「ちょっと休めるベンチがあったらいいなぁ」から、はじまった。
吉田さん
私の父がそうだったんですが、歳を重ねたり病気をしたりすると、長い距離を歩くのがしんどくなります。それでも、自分の足で買い物に行きたい。誰かに頼んで買ってきてもらうよりも、自分で選んで買う方が楽しいじゃないですか。仮に1km先のお店への道中にベンチが2台ほどあったら、ひと休みして自分で歩いて出かけられるのに……
そんなことを考えていた頃に、深草学区でも『高齢者や子連れの親子が買い物や散歩をするのに、ちょっと休めるベンチがあったらいいよね』と話が挙がっていたそうで、2018年から有志の方々と地域の竹を用いたベンチを作りはじめました。
吉田さん
深草ではベンチのデザインは研究室と竹の作品を製作するNPOの方との協働で進めました。藤森、藤城ではデザインから地元で進めており、どの地域も製作から、置き場所の交渉も、地域の人たちがすすめる。「自分たちで作ったものを、自分たちがお願いした場所に置いていく。だって、自分たちが使うんやから」の気持ちをビシビシ感じます。藤森、藤城では、ベンチがあれば、ご近所さんがそこに“とまり木”的にあつまれる!とさらなる展望を描かれました。
中京のまちなかでプロジェクトを進めたころのベンチには背もたれや肘置きはなかったんですが、座り心地の声が上がり、深草では背もたれや肘おきをつけるよう改良しました。そうしたデザインを一緒に考えるのが楽しいひと、作るのが楽しいひと、竹や木に触れたいひと、製作会にお昼ごはんを作ってくるのが楽しいひと、楽しさを見出すところがバラバラなのもおもしろい。
「うちに置いてもいいよ」で、ベンチが広がる。
吉田さん
法令などの兼ね合いで、「おでかけベンチ」(深草)も「とまり木ベンチ」(藤森・藤城)も、設置場所は基本的に私有地です。個人宅やクリニック、薬局、郵便局、デイサービスの敷地内、お寺の門前など、みなさん「うちに置いてもいいよ」で場所を用意してくださる。深草で最初にベンチを置いてくれたのは、一緒にベンチ活動していた80代の女性の自宅駐車場でした。
ベンチでおでかけのときに座る方を観察していると、だいたい2〜3分なんですよ。座っている時間って。住宅街から駅に向かって何百メートルかおきにベンチを繋げていけたら理想的ですが、現実はなかなか……とまり木休憩所実行委員会(藤森・藤城)の代表は、「マップを手に設置のお願いにまわるけれど、交渉の打率は3割くらい」と言っていました。
プロジェクトの実行委員会では、「小学生がベンチで宿題をしていました」「お母さんが小さい赤ちゃんを連れてベンチに座って、絵本を読んでいました」という話も聞きます。地域の日常をつなぐ仕掛けとして、ベンチが広がっていってくれたら、僕もうれしいです。